絃バス屋を開業した頃、ご来店された幾人かから質問されたことがあります。
“『コントラバスの修理や調整技術は関東の方が優れていて、関西の方は全然ダメだ。』という話を、(とある)職人さんから聞いたことがありますが、それは本当ですか?”
私は京都のオリエンテで修行を積みましたが、関西では、そういう話は全く聞いたことはありませんでした。
それに、私は1995年から2015年までの丸20年間、オリエンテに在籍していましたが、関東のコントラバス職人がオリエンテに訪れたという記憶はございません。
だから、『コントラバスの修理や調整技術は関東の方が優れていて、関西の方は全然ダメだ。』という話は、そもそも根拠がないもので、どこかの関東圏のコントラバス職人の商売のための〈売り文句〉だったわけですね。
開業当初、実際に、このような質問を受けることは少なくなく、困惑しましたし、“関東というところは、こういう商売の仕方が成立しているのか・・・。” と、憮然とした記憶があります。
私が、わりと強めの意見を投稿することがあるのは、そのような『まるで根拠のない嘘の話』が、なんとなくコントラバス界で〈根っこ〉を張ってしまっている感じを、日々の仕事の中で感じることがあるからです。
少々無責任な意見かもしれませんが、これが個々の話であれば “そんなもん、信じるも信じないも、個人の好き勝手。” と言ってしまえるのかもしれませんが、それが積み重なって『コントラバス業界』まで目を広げた時に、それは文化を衰退させる〈癌〉でしかありません。
良くも悪くも、コントラバスの職人世界も世代交代が始まっている中で、もう、古い嘘にまみれた価値観は捨て去って、新しい(正当性のある)価値観を構築しなければ、これからの時代に、コントラバスという楽器の文化は衰退していくのかな、と危機感を感じています。