虫食いで無残な姿となった楽器の表板交換の修理完了、納品もできました。 この楽器の当初の状態は、『どう考えても、売り手の責任』という記事で紹介させていただいています。 本来、『オールド』と称される古い楽器の修復には、できる限り現状を活かした(生かした)修理方法を用いることが理想ですが、この楽器に関しては、あまりに重症ということと、オーナーは某コントラバス専門店で『第二次世界大戦前の楽器(=70年以上前に作られた楽器)』と言われて購入されたということですが、分解してみると、あまりに材木が新しく、どう考えても戦後に作られた楽器だと判明しました。(まぁ・・・売り手の詐欺といえば・・・詐欺ですね。) そこで、思い切って表板を新しく作ることにしました。 表板を作る際に、オリジナルを尊重して完全コピーを作ることも可能ですが、この際なので、オーナーと話し合って、この楽器の本来の〈音〉と、オーナーがさらに望む〈音〉を融合させたような設計にすることにしました。 簡単にいえば『オールド楽器のような中音域が柔らかくも、現代の音楽環境に適した抜けの良い高音』というリクエストでした。
低音に関しては、あまりブンッと力強く鳴らす必要はなく、適度にバランスの良い低音が欲しいということでしたので、そのたりはスタンダードな削りを。中音域は、私が普段作る楽器よりは若干、厚めに削って落ち着いたトーンになるように。高音域は、私が好んで作る楽器のように、音は太く、しかも抜けの良い音が出るように削りました。 コントラバスは音域によって表板の響く位置が違うので、そこを狙って削ることで、そういう芸が可能なのです。
色合いも『なんとなく古っぽい感じ』が出せたかな、と思います。 最終的に、『オールド楽器と新作楽器の音を合わせ持った、ハイブリッドな感じ。』という狙った音も出せましたし、一安心です。 表板をオリジナルとは全然違う設計思想で削りあげたので、全く違う楽器に変身してしまうのではないか・・・と少し心配もしましたが、オーナーからは、本来のオリジナル楽器の状態であった頃の〈音〉も残っていると言われたので良かったです。 これで、この楽器も、とりあえず100年は寿命が伸びてくれたかな、と思います。