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膠を流しても直らない

珍しく、楽器の話。

 しかも修理技術の話。

 珍しく、珍しく。



 何年もの時間をかけて材木が乾燥をすると、縮みます。

 すると、材木は割れます。

 それはコントラバスでも同じ現象が起きます。

 それは、ある程度は仕方のないことです。


 そこで、よく行われる修理が『割れ目に膠(にかわ=接着剤)を流し込む』というもの。

 実はこれ…絶対に楽器は直りません。

 これは、一時しのぎの対応でしかありません。


 当店にも、ちょっとした割れなどに対して、オーナーから“膠を流し込んでください。”と依頼されることがありますが、その作業はお断りさせていただいております。

“誰だ。そんな直りもしない事を(演奏者に)教え込んだ奴は ?!”と憤りさえ覚えるほどです。


 膠は万能ではない。

 そもそも、膠はパテではない。


 なぜ、割れ目に膠を流し込みことがダメなのか?

 そもそも膠は圧着することで材木の繊維に入り込んで絡まることで強度を得ます。

 だから、流し込んだだけでは周囲の材木の繊維に入り込めないので、接着強度はえられません。

 そして膠は硬化します。

 水分を含んだ状態では柔らかいですが、乾燥すると硬くなります。


 考えてみましょう。

 膠を流し込むが接着不十分な状態→膠が硬化する→楽器が大きく振動する(演奏する)→硬化した膠が(振動で)割れる→ノイズになる

 修理をしたつもりが、結局、ノイズ発生の原因になります。


 今回の写真でも、流し込まれた膠が割れて剥がれ落ちていることが確認できると思います。


 この修理方法を用いるのであれば、弾性のあるゴム系の接着剤の方が、まだノイズを発生するリスクを軽減できます。

 もっとも…ゴム系の接着剤を使用することなどありえないのですから、この修理方法自体が『現実的ではない修理方法』と言えるでしょう。



 このような乾燥の収縮による割れの修理は、割れた部分に材木を埋め込むことが一番最適な修理方法です。



 『割れ目に膠(にかわ)を流し込む』という修理は、特に古い楽器に多く見られます。

 おそらく何十年前、もしかしたら100年ほど前には日常的に用いられてきた修理技法なのかもしれません。

 しかしその当時に修理した職人が、まさか何十年後にノイズが発生するなど考えてもいなかっただろうと推測されます。


 昔は、それで良かった。

 でも、それを現代に用いるべき修理技法ではない。

 悪いものを『それが伝統だ』と有難く語っているのは単に思考停止であって、職人の怠慢です。

 そもそも、伝統を語るのであれば、受け継ぐべき伝統を正統に受け継いでから語るべきです。



 変わるべきものと変わるべきではないものがあるように、受け継ぐべき伝統とあえて終焉を選ぶべき悪き〈伝統〉があります。


 この『割れ目に膠(にかわ)を流し込む』は悪き伝統で、これによって得られる益があるとすれば『職人が楽をして金を稼げる』と言ったところでしょうか。




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