『コントラバスは演奏するジャンルによって弦高が違う。』などと言うのは古くて、もう現代には全く通用しない価値観です。 というのも、近年は、クラシックもジャズも両方演奏する本職の演奏家が増えてきて、『演奏するジャンルによって弦高が違う』という古いステレオタイプの価値観では、コントラバス職人としては、適切な調整ができなくなってしまいます。
昔は、わりと音楽ジャンルによって弦高というものは基準のようなものがあったようにも思いますが、現代では、音楽ジャンルというよりも、演奏者の好みによって、弦高というものは決まってくるように思います。 例えば、『クラシックは弓で演奏することが多いので、弦高を高くしないと、弦が振動した時に指板に触れてしまう。(=ノイズが出る)』と言われてきましたが、実際は、『振動した弦が指板に触れるから、高くしないとダメだ。』ということはありません。 当店のHPのコラムには『弦高は、どこまで下げられるのか?』という記事がありますが、この楽器は、指板の下の部分の1弦で2.5mmの高さに調整しましたが、問題なく弓で弾くことができますし、記事には書きませんでしたが、この楽器は最終的に、2.0mmまで弦高を下げましたが、それでも問題なく弓で弾くことは可能です。 要は、職人側がキッチリと指板を調整できるのかが問題なのであって、楽器の構造としては、問題なく下げられます。 もっとも、この弦高になると、演奏する側にも、かなり高度な弓の扱いが必要になるかと思いますが。 逆に『弦高は、どこまで上げられるのか?』という話になってくると、私の感覚では、1弦で9.0mmを超えてくると、どうも弦の振動が駒を伝って楽器の表板に到達する前に減衰してしまっている印象があります。 そういう意味では、私の感覚としては、高くするのは9mmぐらいが限度かな、と思います。 だから、『弦高による音色の変化』ということを考えた場合、あまり弦高を上げすぎると楽器の響きが弱くなり、逆に音の芯は強くなりますが、結果的に全体的な楽器の音量は小さくなります。 そしてピックアップマイクを使用した時には、響きの少ない硬い音色になる傾向があります。 逆に弦高を極端に下げた場合には、楽器本体へ流れ込む振動量が多いので、響きの多い音色になりますが、これは逆に、音の芯が少なくなるため、音程感のない音色になる傾向があります。 もっとも、こちらの場合は駒の調整で音の芯を作ることは可能です。 だから、駒の調整ということだけを考えたら、弦高の高すぎる駒よりは、低すぎる(?)駒の方が、まだ音色の調整は難しくありません。 結局のところ、弦高というものは演奏者にとって『高すぎず、低すぎず。』の好みの高さが丁度良いもので、音色に関しては、駒の調整で処理できるので、あまり気にする必要はないように思います。