オーディオ用も含め、スピーカーのキャビネット(箱)の中に、『絶対に吸音材を入れる必要があるのか?』と問われれば、実は、実際に音を聴いてみて吸音材は不要だと感じたら、必要無いです。 当店で普段から店内BGM用に使用している Electro-Voice (EVID6.2)を改造したスピーカーには吸音材を入れていません。 もっとも、一般的にベースアンプに吸音材が使用されていないのは、音響的な設計思想というよりは・・・コスト削減といった意味合いの方が強いかと思います。 真面目に(?)吸音材を貼りつける作業は、けっこう手間となりますから。
“それでは、吸音材の役割とは何なのか?” という話になりますが、吸音材を入れて大きく音の変化が現れるのは、中音域です。 ベースという楽器の領域での話となると、ハイポジションとかスラップとか、そういう演奏でよく出てくる音域かと思います。 その音域を『吸音する』というよりは『不要な音を排除し、整える』というイメージが、吸音材の役割です。 だから『吸音材を入れたら低音が出なくなった』とか『高音域が出なくなった』という話があるとすれば、それは理論的には、あまり的を射ていません。 もしそれが本当だとするならば・・・吸音材の入れ方が下手なのでしょう。
もっとも、厳密にいえば低音域も高音域も多かれ少なかれ吸収されているはずですが、全体の割合とすれば、やはり中音域が一番影響するといえるでしょう。 吸音材の素材には幾つかあって、オーディオの世界では昔から(70年代以前から)ガラス繊維で作られた『グラスウール』が定番でしたが、現在は素材がガラスの繊維ということもあり、吸い込むと健康を害するのではないか・・・との懸念もあり、使用されることは少なくなりました。 このグラスウールは、鮮やかな音が出るのが特徴です。 80年代には、ウレタン製のスポンジを吸音材に使用することもありました。 私の知る限りでは、Rogers や Spendor などのヨーロッパ系のスピーカーには多く使用されていたような記憶があります。 ウレタンの吸音材は、グラスウールとは対象に、柔らかい音が特徴です。
近年では『サーモウール』という、羊毛を主体とした材料を使用した吸音材が一番良いとされています。 出てくる音が非常に自然な感じで、音に角(かど)が無いという表現をされたりもしているようですが、私は、まだサーモウールは使用したことがありません。 当店で使用している吸音材は、『ニードルフェルト』という廃材となった古布を裁断して、さらに細かくしたものです。 こちらは価格も手頃で、非常に費用対効果の良い吸音材です。 サウンド的には、サーモウールなどと比較すると、やや硬めの音になるとは言われていますが、総じて癖のない中庸的なサウンドで、そういう意味でも扱いやすいかと思います。 まだ実験したことはないですが、『あくまでコントラバスの空気感のある音を追求する』というのであれば、もしかしたらサーモウールを使ってみるのが最良かもしれませんが・・・どうでしょう?