top of page

久しぶりにウルフトーンの話

せっかくなので、久しぶりにウルフトーンの話。   『ウルフトーン』とは、簡単に言うと、音程感のない波打った音のことですね。    Wikipediaでは『演奏音と楽器の胴体の共振周波数が一致した時に発生する、原音の周波数を増幅/拡大した、持続し共鳴する人工的な倍音である。』と書かれています。    さらにネットで調べてみると『楽器には固有振動があって、それが弦の(特定の音域の)振動と共振してしまう。だから消せない。』というような記事も見かけますが、正直、私でも、いまいち解説を読んでも理解に難しいです。  

     私の経験では、もっと単純に、ウルフトーンの原因の多くは『弦の振動が、上手く駒を伝わって楽器本体に逃げきれなかったもの(振動)が、弦のほうに返ってきてしまっている現象』だと気がつきました。    もっと簡単にいうと、『表板に逃げきれなかった振動が、弦のほうに返ってきちゃった。』という現象。      そして、稀(まれ)に楽器本体の設計上の問題(失敗)で、一度、表板まで振動が伝わったのに、そこから楽器全体に振動が進まず(伝わらず)に、振動が逆流して駒を伝って弦に戻ってしまう事で、ウルフトーンが発生することもあります。    これは、だいたい楽器の構造を確認してみると、ウルフトーンが発生しやすい楽器というものは、見れば判断できます。      それ以外にも、過去に大きな修理を経験した楽器などは、どうしても楽器内部の補強によって、楽器の振動が不安定になることで、ウルフトーンが発生することも、あるようです。          とはいえ今回は、一般的な駒によって発生するウルフトーンの処理の仕方を紹介します。        ウルフトーンの対策として『ウルフキラー』という金属部品を弦に取り付ける場合がありますが、その部品を使用した時に、“ウルフトーンが発生する音域から散らすだけで、別の音域でウルフが出る。” などという話も耳にした事がありますが、それは、結局のところ、駒の上で振動が逃げきれずに溜まってしまっているわけですから、その場合、ウルフキラーだけで解決するのは難しい、ということになります。      だから最終的にウルフキラーを使用することになったとしても、その前に、駒の調整は、適切にしておく必要があるわけです。        一般的に、コントラバスのウルフトーンは『A=ラ』の音と、その周辺の音に発生します。  しかし、例えばオリエンテのミニコントラバスや、弦長が100cmを切るような小さな楽器では『D=レ』の音でウルフトーンが発生する場合があります。    しかし今回は、一般的な『A=ラ』で話を進めます。  

 写真の駒、黒く塗りつぶしてある場所があり、数字が書かれています。  これが、それぞれの弦の〈A〉の音の調整場所です。    ウルフトーンが出た場合、そのほとんどが、この場所を削れば解消できます。      ただし、重要なことは、聴き分けです。    例えば3弦のウルフトーンを聴いた時に、低い音の成分が多いのか、それとも高い音の成分が多いのか、それとも3弦単体の音の成分が多いのか、そのウルフトーンの音の成分によって、低い音が多ければ4弦のポイントを、高い音が多ければ1弦や2弦のポイントを削って、溜まっている振動を表板に逃してしまいます。        その時に、よく映像で『不要な響きを取り除きます』と説明が出てきますが、ウルフトーンの場合も、その振動は4弦側ではなく、1弦側に上手く逃さないと、ウルフトーンはスッキリと消えません。      当店の動画に『ウルフトーン対策 実験映像』というものがあって、あれは3年ほど前に撮影されたものですが・・・今になって観てみると、下手ですね。


​ ただ、まだあの頃は『ウルフトーンが消せる』という事が重要なのであって、現在のように『いかに早く適切に処理できるか?』が求められていたわけではないので、“あの頃の精一杯。” と、映像をそのまま残してあります。        ウルフトーンを駒の上で消すのには、定義があります。  それは事実です。    ただ、その『組み合わせ』は、職人の感性と技術、そして経験が必要です。        逆にいえば、職人が感性と技術と、経験を積めば『ウルフトーンは消せる』ということです。        慣れると、そんなに難しい技術ではありません。

bottom of page