本日のお仕事。
“コントラバスを作っているだけなら、気楽で良いのだけどな。”
と丁度考えていたころに、常連さんからベースアンプのキャビネットの調整依頼を受けました。
本日は、Epifaniのキャビネットです。
“どうも思うようにサウンドが作れなくて、これはキャビネット側のサウンドのバランスに問題があるのではないだろうか?”
という考察の上で持ち込まれました。
Epifaniのキャビネットは、ウーハー(低音域用)もツイーター(高音域用)もEminenceが採用されています。
ウーハーとツイーターのクロスオーバー(低音と高音の受け渡し)は2kHzですが、これはEminenceのユニットの癖で1.5kHz〜3kHz付近の音が減衰し、サウンドに谷間ができています。
そして、キャビネット内部で中高音域が不要に共振(共鳴)してしまうので、不安定なサウンドになります。
そこで、吸音材を変更します。
オリジナルの吸音材は、グラスウールでした。
厳密にはミクロンウール(微細なグラスウールで作られたもの)ということになるのかもしれませんが、少し硬めの印象があります。
今回交換したものは、柔らかいミクロンウールです。
そして試奏をしながら、吸音材の量の調整をしていきます。
キャビネット内部で特定の周波数が共振(共鳴)してしまうと、非常にサウンドのコントロールが難しくなります。
プリアンプのイコライザーで調整しても、キャビネット内部で物理的に共振(共鳴)してしまうので、完全に消すことは不可能です。
その問題を、適切に吸音材を使用することで、問題を解決させます。
“本来、こういうキャビネットの調整は…誰の仕事?”
ベースアンプのスピーカーキャビネットの調整は、エレキベースの職人の仕事でしょうか?
少なくとも、コントラバス職人の仕事だとは思いません。
これはやはり、販売店が責任を持って受ける仕事でしょうか?
常連さんと二人で、話は盛り上がります。
最近の楽器は、プロが使うものとアマが使うものが同じになってきている。
そう、プロもアマも同じ楽器を使っている。
いわゆる『プロ仕様』というものが無くなった。
いわゆる本職が使うためだけに設計された機材を販売するとしたら、非常にコストがかかってしまう割に、売れない。
だからメーカーも作らない。
それならば、せめて拡張性を持たせた機材を作ってもらえれば、あとは現場の職人たちが演奏家と話をしながら、その機材の性能を底上げできる。
プロでもアマでも『そのままお使いください』が前提とされた楽器・機材は、ある意味、一方的なメーカーの感性の押し付けであって、それは音楽の文化に対して貢献するどころか、衰退の手助けをすることになります。
そして『そのままお使いください』が前提なのは、メーカーの自信ではなく、単純に補償と責任問題の関係で『余計な手を加えるな』ということなのでしょう。
与えられた条件で満足するのであれば、それでも良いですが、他人から押し付けられた感性で満足できるほど、人間というものは単純ではありません。
そのあたり、楽器・機材メーカーは、もっと柔軟に考えてもらえると、音楽の文化の発展は進んでいくと思います。