『ウルフトーンは消えない』という定説がありましたが、実際は消せる現象であって、それは当店の投稿したウルフトーンを消すという映像にもありますし、通常の駒の調整作業の動画でも、ウルフトーンを消している映像も幾つかあります。 ウルフトーンが発生する要因として一番大きなものが『駒の調整不足』というものですが、実際、駒の調整では消すことができないウルフトーンもあります。 その一つは、過去に大きな修理を幾つも経験した楽器は、楽器の振動の仕方が不安定になることで、結果的にウルフトーンなどの不要な共振が増える傾向にあるように思います。 そして、もう一つ。 これは非常に言いにくいことですが、作りの悪い楽器は、ウルフトーンが圧倒的に発生しやすいように感じます。 製作技術が未熟で構造的に板の厚みなどのバランスの悪い楽器はウルフトーンが発生しやすく、特に駒の足元の周辺の削り方が上手くない楽器は、ウルフトーンの発生率が高いように感じます。 これに関しても、ある程度、理論的に説明することは可能ですが、今回は、駒の調整によって、ウルフトーンを解消(または軽減)させる方法です。 当店の調整作業動画にあるように、弦が振動した際に駒の上を通る振動の経路を、渋滞なく整えることで、ウルフトーンは消えます。 そのポイントとなる場所が、こちら(写真)なのですが、とりあえず説明を。 ウルフトーンには、明確に幾つかの種類があり、場合によっては、その複数の共振が同時多発的に発生することがあります。
ウルフトーンの発生場所が・・・ 【1】3弦単体の場合。 その場合は写真の〈A〉の周辺に振動が停滞しているので、その振動を下向きの矢印の方向に、振動を逃がします。 その際に重要なのは、足の外側に振動を流すと、ウルフトーンが解消するどころか増幅してしまう場合があるので、必ず足の内側を振動が通り、表板に流れるように調整する必要があります。 【2】4弦 G#やAの周辺の場合。 基本的に〈B〉で振動が停滞しています。 この周辺を少し削ってやることで、音が安定します。 ごく稀に〈D〉が干渉している場合もあります。 【3】2弦 AやB♭の場合。 こちらは基本的には〈C〉で振動が停滞していますが、よく〈D〉でも振動が停滞していることがあります。 この場合、ウルフトーンの中に、若干の高い音の響きが混じっている場合には、〈D〉の可能性も考えると良いかと思います。 〈C〉の振動も、〈A〉と同じように、足の内側に不要な振動を流し込むように調整をします。 この際の振動の方向性は、4弦側ではなく、必ず1弦側に振動を流します。 【4】1弦 AやB♭周辺の場合。 これは〈D〉に振動が溜まってしまうことが原因であるので、この周辺に振動が停滞しないように調整をします。 基本的に、この4種類ですが、ここからさらに組み合わせの場合があります。 私の経験で一番多いと感じるのが『【1】+【2】』と『【1】+【4】』の組み合わせによるウルフトーンでしょうか? とはいえ『【1】+【2】+【4】』という場合や、『【1】+【3】』や『【3】+【4】』という場合も少なくありません。 結局、ウルフトーンというものは、一つの共振ではなく、幾つかのパターンの組み合わせが多いのですが、その場合もウルフトーン自体の音色を聞き分けることができれば、それほど対処が難しいということでもありません。 ウルフトーンの音色を聞き分けることができれば、あとは『どこを、どれぐらい削って振動の停滞を解消するのか?』ということになりますが、それも慣れれば駒の上の振動の経路を目で追うことも難しくありません。 大切なことは『いかに正確に見極める(聞き分ける?)ことができるのか?』といったところでしょうか? 当店の調整作業動画の中で、この説明の通りにウルフトーンを解消しているので、ご覧になっていただければ、おわかりいただけるかと思います。
当店のYouTubeのページの、ウルフトーンを解消するという動画は、2,500回近い再生回数で驚くばかりですが、実際のところ、あの頃は現在ほど明確な理論を構築できていなかったので、実質2日間もかけてウルフトーンを消していました。
今になって観てみると、あの程度であれば、もっと短い時間で完了できたように思います。 ちなみに、あの動画のウルフトーンは【1】の単体の問題ではなく、『【1】+【2】』で、少し『【1】+【4】』も混じっている感じですね。 とはいえ、この作業は精密加工となりますので、あまりDIYに挑戦はせずに、弦楽器専門店に相談されることを、お勧めします。