普段、こういうネタは載せないようにしていますが・・・今回はオーナー様の了承を得て、あえて公開させていただきます。
この楽器は、東京都内の某有名コントラバス専門店で2年ほど前に購入された、いわゆる『オールド』といわれる古い楽器です。
先日、“どうも、楽器が虫に食われていると思うのですが・・・。”と、ご来店され、相談を受けました。 鏡を使って内部を確認したら、虫食いを確認できたのですが、その時は、それほど大きな穴ではなかったので、 “とりあえず分解してみますが、これぐらいなら対処できると思いますよ。” と、楽器を受け取り分解したところ・・・・・・この惨状。
“・・・・・・(購入してから)2年で、この惨状は、あり得ない・・・。” と思わず絶句してしまいました。
後ろから光を当てると、楽器の中心がステンドグラスのように輝きます・・・・・・。 私がオリエンテでの修行時代、製材前の原木の保管状態での虫食いは大量に見てきました。 オリエンテでは、仕入れた材木は、すぐには使わずに大きな倉庫で3年から5年、長いもので10年以上の自然乾燥を経て、楽器の材料として使用するため、どうしても虫食いは避けられません。 そのため、下働きのような仕事をしていた頃から、虫との戦いは日常で・・・虫嫌いの私にとって、『下働きの一番苦しかったことは?』との質問を受ければ、間違いなく『虫!』と答えるでしょう。 その経験があるだけに、これが、たった2年で形成された虫食い痕(あと)でないことは、断言できます。 間違いなく『虫食いの状態を知らされることなく、購入してしまった』ということになります。
おそらく、この楽器は現オーナーが購入される前から、現状に近い虫食い状態であったと思われます。 まぁ、販売店側とすれば『これは気がつかなかった。』というのでしょうが、いえ、絶対に気がつきます。 少なくとも、私の修業先であるオリエンテの職人であれば、全員、気がつきます。 もし、この程度のことを気がつけなければ、虫に食い荒らされたオリエンテのコントラバスが、日本中に蔓延(まんえん)しているはずです。
そして、この楽器、あまりの大穴に驚いたので、オーナーに再度ご来店いただいて、対応を協議させていただきました。 材木というものは、繊維が繋がっていて初めて強度が出ます。この状態では仮に穴を埋めたとしても、強度は保証できません。 目先の2年ほどであれば耐えられるかもしれませんが、5年先となると・・・どうでしょう? 最終的に、表の板を新しく作り変えることになりました。
さて・・・これが虫食いの状態を知った上で黙って販売したのであれば、あまりに悪質です。 また、虫食いがあるにも関わらず、気がつかずに販売したというのであれば、あまりに軽率です。
演奏者側に“オールド楽器は、色々とトラブルを抱えている場合があるので、注意しましょう。”などと注意喚起をしても、限界があります。 やはり、販売店側の真摯な姿勢と、オーナーとなる演奏者とのコミュニケーション、信頼関係が重要になってくる・・・と、当たり前の言葉しか・・・出てきません。