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『最先端を考える』みたいな、お話。

『最先端を考える』みたいな、お話。

ここ数年でしょうか?  当店の常連さん達と話題になるのが、“『スピロコア』は意外と低音が出ない。” という、お話。    ジャズの世界では、もはや超有名、定番ともいえる『スピロコア』という弦ですが、“あの弦って、深い低音は期待できないよね。” というのは、よく耳にします。  実際、スピロコアの弦は、低音の響きよりも高音の響きの成分の方が多いような気がします。      先日も、楽器の調整にご来店いただいたオーナーと、そんな話題になった時、“それでは、代替えとして良い弦は何か?” という話題になり・・・パッと頭の中に思い浮かびません。    近年、多くの種類の弦が各メーカーから発表されていますが、(良くも悪くも?)スピロコアほどの汎用性の期待できる弦は、ありません。        この『スタンダードが思い浮かばない現象』というのは、どうも弦だけの話ではなく、コントラバス周辺のピックアップなどの様々な音響機器も、もっと言えば、コントラバス専門店の在り方さえも、似たような問題を抱えているような気がします。    言ってしまえば、多くのメーカーが、今現在の〈音楽〉に求められているものよりも『俺が最先端!』を謳って(うたって)開発・発売してしまうので、意外と『今現在の音楽(文化)に必要な〈音〉』が見つからずに、逆に、新製品の〈音〉に演奏者が合わせて音楽を奏でているのではないか・・・という感じを抱きます。    結局、『今の時代の音楽文化』と向き合うことなく、それぞれが『最先端』を目指していることで、音楽的な方向性というか、〈音楽的感性〉というか、その方向性に〈まとまり〉が無いゆえに、混沌、とでもいうか。    そういう事態は、常連さんをはじめとして、ご来店されたオーナーの方々との話の中で、『結局、欲しい音(音色)に行き着かない。』というご相談を多く受ける要因になっているような気がします。        先日、一つの実験として、古い時代の『Peterson BASS MASTER P200』というアンプに、現代では『非常に音が硬い』で有名な、古い設計のピックアップマイク『Fishman BP-100』を使用してみたら、非常に音のバランスが良かった、という記事を掲載しました。 https://www.facebook.com/genbassya/posts/1280940178711150    結局、それは、それぞれのアンプのメーカーであったり、ピックアップのメーカーであったり、そして弦のメーカーが、それぞれに『今の時代に求められている音と、今の時代に作られている音』を、よく感じ取ることで、最終的に『弦にスピロコア(キラキラした音)・ピックアップにFishman BP-100(カリカリした硬い音)を使って、15インチのユニットのアンプ(ゆったりとした柔らかい低音)を鳴らすと・・・あら素敵♡』のような、それぞれの役割(特性)を上手く組み合わせ、適切な音色が作れたように思います。    ただ現代は、作る側に『何かと合わせた時に・・・』という発想がなく、とにかく斬新で個性的な新製品を排出するので、演奏者側が組み合わせに苦労している状況・・・とでもいうか。      楽器の調整方法なども、演奏者が求めるものであったり、楽器の個性よりも、職人側の意図で〈音〉を作られているような楽器を目にすることが多々あります。    確かに、演奏者や楽器の言うことに耳を傾けず、“これが俺の調整だ!” と言ってしまう方が、仕事は楽ですし、なんとなく『唯一無二の存在』をアピールできるのでしょうか?  私は、よく言うところですが『職人が自己主張したところで、百害あって一利なし。』なわけで、それは演奏者の自己表現である〈音楽〉の足を引っ張るだけで、良いことは何一つ無いと考えています。         そんな話を女房としていると、彼女は言いました。 “今の時代、『俺、最高!』と最先端であることを自己主張するのは当たり前で、そうでないと(商売として)生き抜けない。”    確かに、私もそう思いますし、実際のところ理解もしています。    私は映像も作りますが、以前から感じていることは、映像世界(ショートフィルム)においてApple(Mac)のCMは、CGの使い方であったり編集技法であったり、かなり『平均的』に思うのですが、そのAppleのCM・・・胸焼けがするほどに『俺、最高!』を強調しています。        ただまぁ、そう考えると『俺、最高!』が今の文化の価値観で、その世俗の価値観は確実に〈音楽〉に反映されるわけですから、その利己主義的な『俺、最高!』的な感覚の楽器業界は、むしろ正常・・・とも言えるのでしょうか?     ・・・ん?  じゃぁ、それでいいのか?          だとしても、私は裏方であり続けるところが本懐でありますし、そこの立ち位置にこそ、絃バス屋の存在意義というものがあるのかな、と感じています。  そもそも私自身が『最先端』どころか、『時代遅れ』の修行で育ち、古い価値観のもとで職人として生きているわけですから。  当店のオリジナル プリアンプも、既存のピックアップに合わせて使いやすいように設計をしてあるので、そういう意味で〈最先端〉ではないのです。          結局、当店の役割は、その多くの『最先端』の中から、オーナーの求めるものを的確に選び抜く・・・ということ、なんだろうなぁ・・・と思うのですが・・・難易度高いですね。

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