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The Realist LIFE LINE その2

『LIFE LINE』は、わりと近年に発売開始をされた、新しいピックアップ マイクです。  このピックアップは駒のアジャスターの部分に挟み込む形で取り付けます。    ところが、ここ最近、このピックアップの不具合の事例を、いくつか耳にしています。  症状は、どれも同じく『出力が極端に弱くなった。(=音量が出ない)』と。        私に入ってきた不具合の情報を総合すると、電気系の不具合というよりは、そのピックアップの構造的な問題ではないかと推測できました。  私は『ピックアップ内部の緩衝材が潰れて、圧電素子(ピエゾ素子)に過度の圧力が掛かることで、圧電素子が動作不良を起こした。』と、予想をしました。    というのも、どこか過去に記事にあるかと思いますが、以前に私も LIFE LINE を真似て、似たようなものを作ったことがありますが、圧電素子が過度の圧力に耐えきれずに動作しなくなってしまった経験があります。  そして面白いことに、その圧電素子は壊れたわけではなく、圧力から解放すると、また問題なく作動していました。  おそらく、同じような原因かと考えられます。        そこで、常連さんから壊れた LIFE LINE をお借りして、『LIFE LINE は修理可能なのか?』という実験(&研究)をしてみました。    まず分解をして、構造を理解します。  写真でも確認できますが、LIFE LINE には、3つのピエゾ素子が使われていて、その周囲に緩衝材が貼られていますが・・・やはり予想通り、この緩衝材が劣化して潰れています。  緩衝材の素材は、“こりゃぁ・・・潰れるだろうな。” と思うような、柔らかいスポンジゴムを使用していました。    確認してみると、電気的な部分には、何の不具合も見つかりません。      緩衝材を交換します。  いくつか候補がありましたが、今回は、駒の素材と同じカエデを使用します。  1mm ほどの厚さの板を貼り付け、そこから圧電素子を同じ高さに揃えるために、少し薄く削ります。  最終的には、0.7mm ほどの厚みに仕上げたかと思います。    そして、ケーブルは、いつもの MOGAMI に交換して、ジャックも交換。  

 近年の REALIST はジャックの分解が不可能ですが、内部に抵抗器などの回路が搭載されているか確認をする必要があったので、強引に分解をしてみます。 “いくらなんでも、こりゃぁ、無茶をしているな・・・。” と思うほどに、樹脂でガチガチに固められています。  元々、『修理をする』という概念がない設計というわけですね。    ジャックに内部には、抵抗器が二つ、合計で 3MΩの抵抗が付いています。  一瞬、“1MΩ と2MΩで並列?!” と戸惑いましたが、よく考えてみると、『1MΩ と 2MΩ の直列で 3MΩ。 ピックアップ自体のインピーダンスが 3MΩ だから、並列化させて、最終的なピックアップの出力時のインピーダンスは 1.5MΩ。』ということですね。  それにしても、3MΩの抵抗器ではなく、1MΩと 2MΩの直列で 3MΩにするという・・・こういう中途半端な組み上げかたをすると、ノイズが発生する原因になりやすいです。

        そして、あれやこれやと、ノイズ対策なども施して組み上げます。    完治しました。  出力低下の原因も、対処の方法も予想通りでした。      緩衝材をスポンジゴムからカエデに変更したので、音色は変化しています。  若干、高音域が広がりましたが、素材が駒と同じということで、不快な高音域ではなく、わりと自然な響きが得られています。      今回の修理のポイントは、やはり緩衝材でしょうか?    おそらくオリジナルは『少し柔らかめのサウンド』を求めるためにスポンジゴムを採用したのでしょうが、耐久性までは考慮していなかったようです。  ただ、カエデを使用すると、やはりオリジナルよりも音は硬くなってしまいます。  しかし、これを『柔らかい音が欲しい』という理由で、コントラバスの表板と同じスプルースを採用すると、おそらく今度は強度の問題が出てきます。 柔らかすぎてスポンジゴムと同じように潰れる可能性があります。    もし材木であれば、カエデよりも少し柔らかいポプラやクルミなどを使えば、音も柔らかくなるかもしれません。  天然ゴムなども考えられますが、問題は、緩衝材を貼り付けてから、ピエゾ素子と高さを合わせるために、0.1mm単位の微調整が必要なわけで、ゴムを使用すると、そこまで厳密に削り取れるのか、ちょっと不安です。    材木に変わる素材としては、可能性としては、厚紙が考えられます。  それも、わりと密度が高くて、厚さ1mm ほどの厚紙。  それならば、駒からかかる圧力に耐えられそうですし、材木よりも柔らかい音が得られるような気もします。          とはいえ、あまりに手のかかる作業工程なので、“できれば、やりたい仕事ではない。” というのが本音でしょうか?    本来、こういう修理は、販売した店や、輸入代理店に責任を持って対応してもらいたいです。  『できない。』ではなく『(意地でも)やる。』のです。  それでなければ、あまりに無責任です。        そんなに安い代物でもないのですから、“壊れたら、買い直せ。” と言わんばかりの売り手側の態度は、一般的な感覚として、“それって、どうなの?” と、私は思うのですが・・・どうなのでしょうか?






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