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The Realist

 今の時代、ジャズやロックでは欠かせない、コントラバスのピックアップ・マイク。  近年では、クラシックの現場にも使われる場合も出てきたとか。  というわけで、今回もピックアップを使用する際の駒の調整方法を、ざっくりとご紹介。  今回のピックアップは、もはや定番の REALIST の『WBASS-PU』と『WBASS-PU WOODTYPE』の調整方法です。  構造的には、楽器の駒の低音弦側の足の下と楽器本体の間に挟み込んで使用する、あれです。(写真、私の私物は何度も修理しているので、ボロボロですが。)


     この REALIST を使用する際の調整方法は、元々はピックアップを使用した際の調整方法というよりは、3弦や4弦などの低音弦の音が膨らみすぎて、音に輪郭がない場合に施される(ほどこされる)調整方法を応用しています。  

 まずは、先日、『駒の上で起きた振動が、どのように本体に伝わるのか?』という解説を書きました。  それを前提として、話を進めていきますので、お読みでない方は、こちらでご確認ください。

 というわけで読んで頂いた前提で話を進めますが、弦の振動の多くは、写真のように低音弦側の足を通して本体に伝わるわけで、そこで待ち受けているのが、 REALIST のピックアップです。



 この REALIST を使ったことのある方なら体感したことがあるかと思いますが、このピックアップ、(良い意味で)音が非常に甘く柔らかい音なのですが、楽器の調整方法を間違えると、輪郭の無いボアボアした音になります。  その『なんとなくボアボアした音』を個性として受け入れるのであれば全く問題ないのですが、“もう少し音に輪郭が欲しい。” という場合に、写真3枚目のように、駒の1弦側に足に振動を逃すことで、音の輪郭をつくり出すことができます。



 厳密に言うと、1弦側の足に振動を逃すことで、4弦側に流れる膨大なエネルギーを分散させることで音に輪郭を出します。  そしてさらに、一度、楽器本体に(1弦側の足から)振動を流して、その本体の表板からの振動を適切に4弦側の足にあるピックアップで集音させることで、楽器本体の響きも一緒に集音できるようにします。      この REALIST というピックアップの取り付け方法の性格上(駒の足の下に挟み込む)、生音(なまおと)の状態では、REALIST を取り付けていない状態の音と比較すると、かなり高い音の成分の響きが少なくなってしまうわけですが・・・そのあたりを強引に楽器を調整することで無理矢理に高い倍音成分を作るのではなく、通常に近い調整をしながら、上手く1弦側に振動を逃すことで、最終的に楽器に負担をかけることなく、楽器本体の自然な響きを維持することが可能です。      この REALIST を使用する際の調整方法と、これも先日紹介させて頂いた Underwood(アンダーウッド)では、調整方法は似ているようで、違います。   Underwood の場合は、駒の振動をピックアップに導きながらも、極力、楽器本体に影響の無いように調整をする必要があります。  だから、 Underwood の説明の記事の写真のように、駒の振動が足に伝わる前にピックアップ側に逃げて行くように調整するわけです。    ピックアップというものは、単純に『正確に取り付けられれば、それで良い。』というわけにも、いかないことが多いように思います。  ピックアップの特性を活かした楽器の調整をすることで、そのピックアップの性能を最大限に引き出すことができますし、また、ピックアップを取り付けた状態での楽器の調整を適切に行うことができれば、(取り付けたまま)ピックアップを使用していない状態でも、違和感なく演奏が可能になります。      当店は、確かにプリアンプなどの電気系の機材の開発・製作もしていますが、どんなに素晴らしい機材を作ってみても、やはり楽器自体が鳴らなければ、何の意味もありません。  そして『本当のコントラバスの鳴り』を知らなければ、良い機材を作れないことも、事実です。  だから当店は、常に楽器(コントラバス)と機材と同時進行で、『鳴る』を研究し続けています。        多くのオーナーからお話を伺ったり、要望を承っていると、『どこまでがコントラバス本体の〈鳴り〉で、どこからを電気的な機材に(音を)任せるのか?』ということを見極めて適切に調整する複雑な技術が、現代のコントラバス職人には求められているようです。    このような細かな調整は、演奏される方々では、さすがに難しいような気もしますので、ピックアップを使用した際の音に不満や違和感を感じる方は、一度、お近くの弦楽器専門店へ相談されてみるのも、良いかもしれません。

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