昨年の11月に、Oriente の二代目が遊びにきたときに置いていった、新作のコントラバス。 珍しく価格を先に言います。 700,000円(+税)です。 Oriente としては特別高価格帯ではない、この楽器の何が違うのかというと、使用されているニスが、オイルニスです。 私は、この価格帯の楽器でオイルニスを使用した楽器というものは、見たことがありません。 よくもまぁ、この価格で作り上げたものです。 “これ…この価格で、儲けは出るの?” と、私は思わず二代目に確認してしまったものですが、 “特に問題はない。” と、二代目は答えました。 コントラバスで使用されるニスは、一般的にはアルコールニスであったり、低価格帯の楽器にはラッカー系のニスを使用します。 これらのニスは、塗膜となって楽器の材木の上に乗っています。 オイルニスの場合は、材木の上で塗膜にならずに、材木の中へ浸透して、楽器の中で乾燥をして材木を保護します。 そのため、厳密にはアルコールニスのような〈膜〉を形成するわけではありません。(どうも全てのオイルニスに当てはまる現象とは言い切れないようですが。) 二代目が当店へ来る半月ほど前に電話で話をしていて、このオイルニスの楽器のことを知らされました。 “全体的に、わりと良い感じに仕上がったから、そっちに置いてみない?” と二代目は言います。 私は、オイルニスの特性を考えると、扱いを間違えると、 “材木臭い音色になるんじゃないの?” と否定的でしたが、二代目は、 “そんな感じの音色ではないよ。” と言うものですから、話のネタ程度の軽い気持ちで、持ち込んでもらいました。 その二代目が当店へ来た日に、私は試奏をしてみます。 ……その音量感に驚きます。 この楽器はHB-65(650,000円)を基準に作られていますが、未調整の状態でありながら、当店に置いてある、私が丹精込めて調整して仕上げたHB-65を圧倒的に凌駕しています。 “……これは、材木も特別仕様なのかな?” と、驚ろきながら二代目に確認をすると、 “いやいや、元々は通常のHB-65として組み上げられたものを、塗装の段階でアルコールニスではなく、オイルニスに変更しただけ。” 二代目は、そのように答えました。 “何か大きな目的があったわけでもなく、なんとなくオイルニスで仕上げたら面白いと思っただけ。” 二代目は、そのように話を続けました。 “なんとなく面白そうだから、オイルニスで仕上げた。” などと言っていますが、話を聞いてみると、コントラバスと相性の良いオイルニスを何度も試作をして決定してきたとのことです。
思いつきと勢いで作ったような言い方ですが、相変わらず、二代目は、人の目に触れないところで努力を続ける職人です。 もう少し自己アピールをすれば、もっと世の中から評価される職人になれると思うのですが……本人には、そのような意思は無いようです。 本当は、凄腕の職人なのに…。 さて、このオイルニスのコントラバス、取り扱いは東日本では当店のみで、西日本では Oriente(ヒガシ絃楽器製作所)のみ(メーカー直接販売)です。 その他の弦楽器専門店での販売予定は、ありません。 特に『Oriente 絃バス屋オリジナル モデル』ではありません。 私は『Oriente 絃バス屋オリジナル モデル』には興味ありませんし、そもそも、そんなものを要求をすれば、 “お前が、自分で作れ!” と、私は、Oriente の親方に叱り飛ばされるでしょう。 今回は、そのような特別な意味合いがあるわけではなく、現実問題として、二代目の意向として、 “本当にOriente に対して理解があって、高い技術のある職人だけに、この楽器を任せたい。” ということだったので、私が引き受けました。 確かに、この楽器の響きは一般的なアルコールニスの楽器とは違うので、サウンドの調整などには高度な技術が必要だと感じました。 まぁ、当店は『販売店』は自称していませんので、特に積極的に売り込むことはしませんが、(この価格帯では)なかなか異次元の鳴りっぷりの面白い楽器です。 当店にご来店の際にでも、遊んでみてください。 Oriente にも、オイルニスで製作されたコントラバスが置いてありますので、西日本の方は、Oriente に問い合わせてみてください。