先日、インターネットのオークションで見つけて、 “おぉ〜、なんかスチーム・パンクっぽい!!!” というだけで、落札した『DeArmond model 900』というピックアップ。 DeArmond(ディアルモンド)というと、ギター用のピックアップでは名前を聞いたことはありますが、コントラバス用のものは初めてです。 インターネットで調べてみても、あまり情報は無かったのですが、どうもこの初期型の発売開始は1948年で、幾度かの改良が加えられながら生産されてきたようです。 この個体自体は、1970年代後半から1980年代に製造された物のような気がします。 基本設計は、もの凄く古いですね。 当店に置いてある私物の楽器に取り付けてみました。私の楽器の普段使用しているテールピースは弦を通す穴は小さいので、とりあえず別の一般的な形状の物と交換しました。 このピックアップ、テールピースに台座を取り付けて『テールピースとボディの間に挟み込む(はさみこむ)』という構造になっています。 そこで問題が発生します。 テールワイヤーに、柔らかい素材のケブラーなどの特殊繊維を使用すると、上手くピックアップを挟み込めません。 ケブラーなどを使用する理由は『テールピースを適度に振動させて、楽器の響きを作る。』という効果があるわけですが、この model 900 の場合は、テールピースは〈固定〉されている前提で、ボディと挟み込まれる圧力でピックアップ本体を密着させる構造なのですから、鋼鉄ワイヤーか針金のような硬いものでないと、使用できないということに気がつきます。 “マジか・・・ここまで手を掛けて仕上げた愛器をデチューン(性能を落とす)しろと言うか・・・。” と、泣く泣くテールワイヤーを、鋼鉄ワイヤーに交換します。 この事例だけでも、いかに古い時代に設計されたピックアップであるかが想像できます。 ケーブルはmini Phoneジャックで、そのまま長いケーブルを用意するのは面倒なので、通常のPhoneジャックに変換させて取り付け完了。 音を出してみます。 全くの予備知識なしに音を出したのですが、これ、ピエゾ式ではなく、ダイナミック・マイクを使用しているようです。 しかし・・・エレキベース(またはエレキギター)のシングルピックアップ特有の、ちょっと高い音の『む〜』という、あのハムノイズが出ています。 このノイズは、スピーカー(アンプ)と楽器の向きによっては完全に消えるわけで、そいう意味では故障ではなく『そういう仕様だ。』ということなのでしょう。 このあたりも、設計の古さを感じますね。
そして肝心の音質ですが、 “・・・・・・えっ?!” と思ったぐらいの、高音質。 そのハムノイズ以外は、一般的なホワイト・ノイズもアース不良で出るノイズも全く無し。 おまけに、設置している場所が、楽器の内部のバス・バー(またはベース・バー)という、駒の振動を強制的に表板全体に広げるパーツの真上にあるので、音の輪郭が明確で、さらに、これが特に驚いたことは、高音域の音が美しい。 以前に紹介したように、コントラバスは音域によって楽器(表板)が振動する場所が違い、このピックアップの位置では、高音域が振動する場所からは一番遠い(=集音しにくい)はずなのに、高音域が安定して出てくる。 “なんで、こんなに高音域が綺麗に出るんだ??” と、よくよく検証してみると、どうも高音域はボディからの振動を受けているのではなく、テールピースからの振動を受けて集音しているようです。 これを狙って設計していたとしたら、とんでもない設計者ですね。
とにかく、音質だけであれば、私が今まで触れてきたピックアップの中ではトップクラスです。 出力(音量)も現代の一般的なピックアップと同等か、物によっては、それ以上の音量を出すことができます。 ハムノイズとは上手く付き合っていけば問題ないようですし、なかなか優秀なピックアップです。 このピックアップは弓で弾いてみても、なんの違和感もありませんでした。 “こんな高性能なピックアップが、なぜ世の中から消えてしまったのだろうか?” とは思いますが、取り付け方が簡単のようで難しかったり、総じて扱いやすい物ではないというのが、多くのコントラバス用ピックアップの中にあって、時代の流れで淘汰(とうた)されてしまった理由でしょうか。 そして、私にとって最大の難点は、弓を入れておくホルスターを装着できない・・・ということでしょう。 これは、非常に不便です。