『Aria SWB-04 の終着点は何処なのか?』みたいな話。 この楽器、以前から私が手を入れさせていただいていて、これまでにマグネットコイル式のピックアップの取り外しや、電気系に手を入れてきたのですが、今回、オーナーからの依頼で『使用するのは fishman BP-100 のみで、プリアンプ自体も取り外し。』ということになりました。 とはいえ、その前にオーナーと “これ以上、この楽器に『楽器自体の鳴り』を求めることは不可能なのか?” という議論になります。 “ちょっと、駒を削ってみても良いですか?” と普段のコントラバスの調整の時のように、駒を少し紙ヤスリで磨いてみると、予想外に反応が良かったので、“どうも・・・構造上は、駒をうまく調整すれば、楽器の鳴りはコントロールできそうですね。” ということになり・・・“さぁ〜。いつものように駒を削って調整しちゃってください。” との依頼になりまして。 さてそこで、考えます。 この楽器のボディ内部の構造から考えて、一般的なコントラバスのような音を追い求めるよりも、発想を変えて、それこそヘフナーのヴァイオリンベース(エレキベース)のような、いわゆる『ホロウボディの楽器』という解釈で音を作った方が、楽器に無理のない響きを得られるのではないか・・・という仮説を立てて、最終的に作り上げるサウンドを、そのような意識で調整を進めることにしました。 この楽器の弦の振動の経路を確認してみると、予想した通り、基本的にはYAMAHAのサイレントベースと同じように、1弦と2弦・3弦と4弦と、振動が左右に分かれて駒の足に流れているようです。 ところが、写真でご覧の通り、この楽器の駒の足は、左右で独立しているわけではなく、左右の足が一体型をしています。 そこで、この一体型の足を『駒の一部』ではなく、『ボディの一部』という認識で調整を進めることにしました。 この形状から考えるに、駒から伝わった振動は、一般的なコントラバスのように『右から来た振動は、右足へ。左から来た振動は、左足へ。』という事にはならず、駒の左右から流れてきた振動が、駒の足の部分で、ある一定量、左右の振動がブレンドされているわけですから、振動の仕方で言えば、駒よりも表板に近いわけです。 ここで活用する技術は、『楽器の調整技術』ではなく『楽器製作の技術』です。 以前、動画で紹介しましたが、コントラバスという楽器は、音域によって楽器の表板が振動する場所が違います。 その、音域によってなる場所が違うものを、最終的にブレンドして『一つの音の塊』を作り上げるのが、駒の周辺になります。 ここの板の厚みの出し方で、かなり楽器の音のキャラクターが決まってきます。
この厚みの出し方を理解できずに楽器を製作すると、纏まり(まとまり)のない散漫な音の楽器が完成し、最終的に楽器の調整で強引に響きを押さえつけて音のバランスをとる事になります。 結果的に『見事に鳴らない楽器』の完成です。 それぐらい、この駒の周囲の板の厚みは重要なのです。 今回は、その表板を削る技術を応用して駒の足を削ることで、楽器全体の鳴りを調整してあります。 駒の足の部分を調整してから、今度はアジャスターより上の部分の調整をします。 これは一般的なコントラバスと同じように調整するだけですので、特に難しいことはありません。 ただ、これも、どちらかというとコントラバスというよりは、YAMAHAのサイレントベースに近い調整方法を使います。
電気系に関しては、“単純に配線を変えるだけで終わるかな?” と思ったのですが、予想以上に手間がかかりました。 う〜ん、楽器内部の構造的な問題です。 この際なので、内部配線のケーブルも MOGAMI に交換しておきました。 コントラバスに限っていえば、私は音質的に癖のない MOGAMI が一番扱いやすいように思うのですが、どうでしょう? さて、あれやこれや手を入れて、完成。 技術的には難しくなかったですが、ちょっと手間がかかります。 肝心のサウンドは、ちゃんと狙った通り『巨大なホロウボディのベースの音』が出ています。 やはり『YAMAHAのサイレントベースは、コントラバスをエレキベースに寄せて作られたもの。』であり『Aria SWB-04 は、エレキベースをコントラバスに寄せて作られた。』という設計から読み取れることが、そのまま音に直結しているようです。 そこを無視して調整をすると、最終的に迷宮に入り込み、出てこられない・・・という事態が発生するわけですね。