ORIENTE HB-25
『HB-25』という楽器は『HO-20』の後継ということで、とりあえず『HO-20』について、お話をします。
オリエンテの『HO-20』といえば、もはやオリエンテの代名詞というぐらい認知されている楽器ですが、その理由は、やはり学校などの教育現場で圧倒的に支持されてきたからだと思います。
『HO-20』のボディは(現HB-25も同じく)、表板は単板(=本物の木)を採用してあり、横板と裏板は合板(=ベニヤ板)を採用してあります。
オリエンテ(正確には社名・ヒガシ絃楽器製作所)の創業の頃(1979年から1980年代後半)は、『HO』ではなく『BO』という型番でした。
その頃は、確か表板も合板の楽器もあったように思いますが、HOシリーズになってからは、合板だけで作られた楽器は無くなりました。
材料の単価として考えると、表板のスプルースよりも、横板と裏板に使用するメイプルの方が圧倒的に高価です。
そのため、オリエンテの親方は “せめて表板だけでも〈本物〉にすることで、楽器としての音は(良い方向に)絶対に変わってくる。” という強い意志で、この楽器を世に送り続けてきました。
というのも・・・実は『HO-20』、オリエンテとしては、かなり採算の厳しい楽器で、私が修行をしていた過去にも、何度も『表板の単板をやめて、合板にするべきか?』という話題が持ち上がりました。
その度に『やはり表板の単板だけは、絶対に死守すべき!』との結論に至り、生産は続いてきました。
親方・東澄雄の思い描く『オリエンテ』は、超高級なコントラバスを世に送り出し続けるようなメーカーではなく、子供達が初めてコントラバスに触れる教育現場において、低価格でありながら質の高いものを、安定して供給し続けるメーカーであることでした。
オリエンテを立ち上げた当時、その親方の強い想いに賛同した問屋や販売店が、教育現場にオリエンテのコントラバスを推薦することで、オリエンテのコントラバスは教育現場にて圧倒的なシェアを得ることになったのです。
『HO-20』は、その象徴的な楽器でもあります。
さて、『HO-20』(現HB-25も同じく)の構造的な話をしますと、表板は、いわゆる『単板削り出し』ではなく、厚さ 9mm ほどの板をプレス成型で膨らみを出しています。
“なぁんだ、プレス成型か・・・。”
と言わないでください。
実は、『プレス成型したら、それで終了。』ではなく、さらにそこから『厚い部分・薄くする部分』と、単板削り出しの製作工程と同じように、ちゃんと削り分ける作業を行なっています。
この削り方は絶妙で、通常の横板と裏板がメイプル材の時と同じようなイメージで表板を削ってしまうと・・・音がボアボアしてしまいます。
そこは、横板と裏板が合板の場合に合わせた削り方、というものが存在します。
その『合板にあった削り方』をすることで、全体の音を安定させることができるのです。
裏板に使用する合板にしても、単純にプレス成型をしているわけではなく、プレス成型をする段階で2種類の合板を貼り合わせることで、時間の経過で変形することを防いでいます。
さらに、その合板を貼り合わせる接着剤も、独自の配合でブレンドしたものを使用することで、経年劣化での剥離のリスクも軽減させてあります。
私がオリエンテで修行をしていた頃・・・もう何年も前の話ですが、仲の良い二代目と仕事を終えてから話をしていた時です。
“これ(HO-20)は、これが限界?”
と、二代目が言うので、
“裏横(合板)とのバランスが難しいけど・・・もう少し(削りの)精度を上げて、上手く(削りの)調整をすれば、もっと鳴るとは思う。”
と私が答えたら、二代目に “じゃぁ、やってくれ。” と真顔で即答されました。
『材料費も作業単価も上げずに、製品の質を上げるには・・・職人に高い技術を要求すればいい。』と・・・まぁ、至極簡単な原理でありますが、私としては、
“面白い冗談だ(=無茶を言うな。)・・・・・・。”
と思ったのは、言うまでもありません。
もっとも、その後、そう言う二代目の想いを真摯に受け止め、私なりに試行錯誤して、さらに質の高い『HO-20』を作り続けました。
そして後継である、現在の『HB-25』というコントラバスもまた、職人たちの想いの中で作られている楽器でもあります。
初めてコントラバスに触れる人の想いを裏切ることのない、そんなコントラバスです。